譲渡所得が0円でも所得税が発生する理由|確定申告の想定外を解説

譲渡所得が0円でも所得税が発生する理由|確定申告の想定外を解説

「譲渡所得が0円なのに所得税が発生するのはなぜ」

マイホームを売って3,000万円の特別控除を使ったのに、確定申告で税金が発生した
——そんな経験をされた方や、税理士に申告を依頼して初めて知ったという方もいるのではないでしょうか。

今回は「所得が0円のはずなのに確定申告で税金が発生する」理由について説明します。

結論から述べると、基礎控除は合計所得金額をもとに計算されるため、総所得が一定額を超えると基礎控除額が下がります。
譲渡所得が0円になっても、他の所得と合算した合計所得金額によっては、基礎控除が減額・消滅し、税金が発生します。

それでは本編へ。

目次

居住用財産の3,000万円特別控除とは

はじめに、居住用財産の3,000万円特別控除について軽く触れます。

この特例は、マイホーム(居住用財産)を売却した場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円を控除することができます(租税特別措置法第35条)。

たとえば、売却価格が3,000万円、取得費と譲渡費用の合計が200万円だったとすると、本来の譲渡所得は2,800万円です。しかしこの特例を適用すると、2,800万円から3,000万円を控除するため、譲渡所得は0円(マイナスは切捨)になります。

譲渡所得:2,800万円 - 3,000万円特別控除 = 0円

「これで課税はなし」と思うのは当然です。ところが、話はここで終わりません。

特例により譲渡所得が0円になった場合でも

今回は、給与が800万円の方が3,000万円でマイホームを売却して譲渡所得が0円になったケースで解説します。

確定申告前の年末調整による源泉徴収票、マイホームを売却した際の譲渡所得は以下とします。分かりやすくするために社会保険料など他の所得控除はないものとしています。

令和7年源泉徴収票
支払金額
(給与収入)
8,000,000円
給与所得控除後
の金額
6,100,000円
所得控除の額
の合計額
(基礎控除)
630,000円
源泉徴収税額680,400円
譲渡所得
売却価格
(収入金額)
30,000,000円
取得費
(不明5%)
1,500,000円
譲渡費用
(仲介手数料)
500,000円
特別控除額
(3,000万円控除の適用額)
28,000,000円
課税譲渡所得金額0円

基礎控除の額は合計所得金額により決まる

マイホームを売却した年は確定申告が必要となりますが、基礎控除を計算する際の合計所得金額は給与所得と譲渡所得を合算して計算します。そのため、譲渡所得の金額が基礎控除の額に影響を与えます。

基礎控除とは

基礎控除とは、所得税を計算する際に所得から差し引ける控除のひとつで、すべての人に適用されます。
ただし、合計所得金額に応じて控除額が変わります。

納税者本人の合計所得金額控除額(令和7年分)
132万円以下95万円
132万円超 336万円以下88万円
336万円超 489万円以下68万円
489万円超 655万円以下63万円
655万円超 2,350万円以下58万円
2,350万円超 2,400万円以下48万円
2,400万円超 2,450万円以下32万円
2,450万円超 2,500万円以下16万円
2,500万円超0円

No.1199 基礎控除より引用

また、合計所得金額については以下のように国税庁HPに記載されています。
条文からの解釈はややこしかったため、関連条文はページ最後に載せています。
ポイントは、この「合計所得金額」の計算は、特例適用前の譲渡所得で計算しなければいけないことです。

合計所得金額

次の(1)と(2)の合計額に、退職所得金額(※1)、山林所得金額を加算した金額(※2)です。
(※1) 退職所得金額は、確定申告が不要な場合でも計算に当たって加算する必要があります。
(※2) 申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。
(1) 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得および雑所得の合計額(損益通算後の金額)
(2) 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額
ただし、次の繰越控除を受けている場合は、その適用前の金額をいいます。

  • 純損失や雑損失の繰越控除
  • 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除
  • 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
  • 上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
  • 特定投資株式に係る譲渡損失の繰越控除
  • 先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除
専門用語集より引用

今回の事例にあてはめると

3,000万円特別控除は、税額計算の段階で適用される「特別控除」です。
そのため、合計所得金額の計算では、控除前の譲渡所得がそのまま使われます。

先ほどの例でいえば、特例適用前の譲渡所得は2,800万円です。これに給与所得を加えた場合、給与所得が610万円のため、合計所得金額が2,500万円を超えることになります。
そのため、基礎控除は0円になります。

計算例

  • 給与所得:610万円
  • 譲渡所得(特例適用前):2,800万円
  • 合計所得金額:3,410万円

一方、所得税額の計算では3,000万円特別控除が適用されるため、譲渡所得は0円で所得の合計額は変わりません。
これを踏まえて確定申告前後を比較すると以下のようになります。

源泉徴収票(確定申告前)
支払金額
(給与収入)
8,000,000円
給与所得控除後
の金額
6,100,000円
所得控除の額
の合計額
(基礎控除)
630,000円
源泉徴収税額680,400円
確定申告後
支払金額
(給与収入)
8,000,000円
給与所得控除後
の金額
6,100,000円
所得控除の額
の合計額
(基礎控除)
0円
源泉徴収税額809,100円

基礎控除がなくなった分だけ課税所得が増え、その分の所得税が増えます。
『譲渡所得は0円なのに税金が増えた』という疑問は、こうした仕組みが原因です。

退職所得にも注意

退職金を受け取った方も同様に注意が必要です。
「退職所得の受給に関する申告書」を退職金の支払者に提出している方は、源泉徴収だけで所得税等の課税関係が終了します。
また、年末調整の際に退職所得が加味されることはありません。
そのため、原則として確定申告をする必要はありません。

しかし、医療費控除等を受けるために確定申告をする場合は話が変わります。
退職所得は通常、他の所得と分離して課税されるため「合計所得金額には含まれない」と思いがちですが、退職所得も合計所得金額に算入されます。

退職金の金額によっては、確定申告を行うことにより他の所得と合算され合計所得金額をが大幅に増加し、基礎控除の減額・消滅につながります。

退職金を受け取る年に不動産の売却も予定している場合は、売却時期の調整を検討してください。譲渡のタイミングひとつで、基礎控除の有無が変わり、思わぬ税負担が生じることがあります。不安な方は事前に税理士へご相談ください。

おわりに

3,000万円特別控除は非常に有利な特例ですが、「譲渡所得が0円になる=税金が発生しない」とは限りません。基礎控除の仕組みと合計所得金額の関係を理解しておくことが大切です。

不動産の売却を予定している方は、売却前に一度、専門家へご相談されることをおすすめします。

なお、当事務所では不動産譲渡に関する確定申告のサポートを行っております。お気軽にご相談ください。

不動産譲渡の確定申告サポートはこちら


免責事項

本記事は、2026年3月10日時点で入手した法令・通達等に基づき一般的な解説を行ったものです。
具体的な税務判断は、個々の取引内容や事実関係により異なる場合があります。
実際の処理を行う際は、必ず所轄税務署または専門家へご確認ください。
本記事の内容により生じた損害等について、当事務所は一切の責任を負いかねます。

参考文献

国税庁HP
No.1199 基礎控除
退職金と税
専門用語集

条文

所得税法第22条
所得税法第86条
所得税法第33条
租税特別措置法第31条

以下は、合計所得金額の計算において特例適用前の譲渡所得が用いられる根拠として、参考として掲載しています。

(基礎控除)

所得税法第86条
第1項 合計所得金額が2,500万円以下である居住者については、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。

課税標準

所得税法第22条
第1項 居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
第2項 総所得金額は、次節(各種所得の金額の計算)の規定により計算した次に掲げる金額の合計額(第70条第1項若しくは第2項(純損失の繰越控除)又は第71条第1項(雑損失の繰越控除)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)とする。

(譲渡所得)

所得税法第33条 第1項 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。

(略)

第3項 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(略)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。

(長期譲渡所得の課税の特例)

租税特別措置法第31条
第1項 個人が、その有する土地若しくは土地の上に存する権利(略)又は建物(略)で、その年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡(略)をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については、同法(所得税法)第22条及び第89条並びに第165条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得の金額(同法(所得税法)第33条第3項に規定する譲渡所得の特別控除額の控除をしないで計算した金額とし、(略)

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この記事を書いた人

新米税理士です。お客様に役立つ会計・税務情報をお届けできるよう、日々AIやITを活用しながら業務に励んでいます。

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