他の税理士のブログを見ると、開業前の地代について「地代家賃として処理すべき」という意見と「開業費に入れてOK」という意見があります。
また、開業前に購入した文房具などの消耗品についても、「消耗品だから開業費にはならない」と考えるべきなのか、開業準備のために使ったのであれば開業費に含めてよいのか気になりました。
そこで今回は、開業費の範囲について調べて整理することにしました。
結論として、私は次のように考えました。
- 消耗品だから不可、ということはなく、開業前に開業準備のために消費されたものであれば、開業費に含める余地がある。
- 開業前の地代も、開業準備期間における場所の確保費用として、準備との関連性を具体的に説明できる範囲では、開業費になり得る。
それでは本記事へ。
開業費とは何か
個人事業主の開業費は、所得税法施行令第7条第1項第1号に次のように規定されています。
所得税法施行令第7条第1項
法第2条第1項第20号(繰延資産の意義)に規定する政令で定める費用は、個人が支出する費用(資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く。)のうち次に掲げるものとする。第1号 開業費(不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。)
開業費は繰延資産の一種です。
繰延資産とは、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので、政令で定めるものをいいます。
その政令が所得税法施行令第7条です。
所得税法第2条第1項
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
第20号 繰延資産 不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上におよぶもので政令で定めるものをいう。
また、所得税法施行令第7条の柱書きには、開業費を含む繰延資産から除外されるものとして、次の2つが明記されています。
資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く。
つまり、パソコンや机など、取得価額が10万円以上となる固定資産の購入費用は、開業費ではなく、固定資産として資産計上することになります。
また、開業後の期間に対応する前払費用も、開業費には含まれません。
これらの条文をまとめると、開業費かどうかを判断するうえでのポイントは次の3つです。
- 支出の効果が1年以上に及ぶものであること(繰延資産の定義)
- 資産の取得費用・前払費用に該当しないこと
- 開業準備のために「特別に」支出した費用であること
なお、法人の場合は法人税法施行令第14条第1項第2号に規定があります。「法人の設立後」という点が加わりますが、内容自体は個人の開業費とほぼ変わりません。
開業費 (法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。)
本記事では主に個人事業主の開業費を前提に話を進めます。
「特別に支出する費用」の意味
条文の中でとくに解釈が分かれるのが、「開業準備のために特別に支出する費用」という部分です。
この「特別に支出する費用」を反対は、「経常的・通常的な費用」になると考えられます。
反対解釈すると、地代家賃のような経常的・通常的な費用は「特別に支出する費用」には該当しない——そのため開業前の地代家賃は開業費ではなく、そのまま地代家賃として処理するのが妥当、という考え方になります。
一方で、国税庁の資料では開業費の例示として次のようなものが挙げられています。
主な繰延資産の償却期間は、次のとおりです(所令 137①③、所基通 50-3)。
Ⅱ 繰延資産の範囲についてより引用
① 開業費(開業準備のために支出した広告宣伝費、開業までの給料賃金など)……5年
② 試験研究費(新製品の試作費用)……5年
③ 開発費(支店開設などのために支出した広告宣伝費、接待費など) ……5年
例示であげられている給料賃金は、開業後も毎月発生する「通常の費用」です。
それでも、開業前の開業準備段階で支出していれば開業費の例示に含まれています。
この資料を見る限り、「経常的・通常的な費用」で判断する(費目が特殊かどうかでの判断)というよりはではなく、「開業前という特殊な段階で支出されたかどうか」で判断していると考えるのが自然です。
消耗品は開業費になるか
文房具などの消耗品について考えます。
消耗品は、通常、支出の効果が1年以上に及ぶものとはいえません。
しかし、先ほどの国税庁の例示を見ると、「開業準備のために支出した広告宣伝費」は開業費に該当するとされています。
広告宣伝費にはチラシ代などが該当しますが、チラシは配り終えれば効果が終了するため、支出の効果が1年以上に及ぶかどうかで考えると、判断が難しい部分があります。
この点を踏まえると、文房具などの消耗品であっても、開業準備のために消費されたものであれば、単に「消耗品だから開業費にならない」と考える必要はなく、開業費に含める余地があるといえます。
たとえば、開業前の準備として、次のような場面が考えられます。
- 打ち合わせ資料を作成した
- 届出書類を作成した
- 営業資料を作成した
- 事務所開設の準備で使用した
一方で、開業時点で未使用の文房具が残っている場合は、開業費というより、貯蔵品として考える方が自然です。
整理すると、次のようになります。
| 状況 | 処理 |
|---|---|
| 開業前に開業準備で使用済み | 開業費に含める余地あり |
| 開業時点で未使用 | 貯蔵品 |
| 開業後に使用 | 消耗品費 |
| 固定資産に該当するもの | 工具器具備品など |
開業前の地代家賃は開業費になるか
次に、開業前の地代家賃について考えます。
地代家賃は、毎月発生する典型的な経常費用です。
そのため、先ほど述べたとおり、通常の地代家賃として処理すべきであり、開業費には含められないという考え方もあります。
しかし、開業前の賃借期間中に次のような実態があった場合はどうでしょうか。
- 内装工事を行っていた
- 備品の搬入・配置をしていた
- スタッフの研修をしていた
- 許認可の申請準備をしていた
- 開業に向けた営業準備をしていた
この場合、その場所は開業準備のために必要だった場所です。
「準備のために借りていた」という実態が具体的に説明できるなら、地代家賃も開業費に含める余地があると考えられます。
一方、次のようなケースは開業費として扱う説明が弱くなります。
- 契約だけして実際にはほとんど使っていなかった
- 自宅兼事務所で、生活用部分が大半を占めている
要するに、「その支出が開業準備と具体的に関連しているか」が判断の軸になります。
まとめ
開業費に該当するかどうかは、費目の名前だけで決まるものではありません。
重要なのは、「開業前に、開業準備のために支出された費用かどうか」という点です。
| 支出内容 | 考え方 |
|---|---|
| 開業前の広告宣伝費 | 開業費になり得る |
| 開業前の給料賃金 | 開業費になり得る |
| 開業準備で使用済みの消耗品 | 開業費に含める余地あり |
| 開業時点で未使用の消耗品 | 貯蔵品 |
| 開業準備期間中の地代家賃 | 準備との関連性を説明できれば開業費に含める余地あり |
| 開業後の地代家賃 | 通常の地代家賃 |
消耗品であっても地代家賃であっても、開業前の開業準備のために支出・消費されたことを具体的に説明できるなら、開業費に含める余地はあるというのが私の考えです。
ただし、未使用のものが残っている場合や、開業準備との関連性が薄いものを無理に開業費に含めることには慎重であるべきです。
開業費の取り扱いに迷う場合は、早めに税理士へ相談することをおすすめします。
おわりに
開業費に該当するには、条文上、3つの要件を満たす必要があることを確認しました。
条文を厳密に読むと、支出の効果が1年未満のものや、経常的な支出については、開業のための支出であったとしても、開業費には含めるべきではないという考え方になります。
ただし、実際の判断としては、開業前に開業準備のために消費されたものであれば、開業費に計上する余地があると考えています。
開業費の判断は、税理士によって考え方が分かれる部分もあります。
そのため、自身が納得できる方法で処理を行い、取扱いに迷う場合は、早めに税理士へ相談することをおすすめします。
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本記事は、2026年6月3日時点で入手できる情報をもとに作成しています。コンテンツの正確性・完全性についていかなる保証も行いません。サイトの内容を利用して生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いません。ご利用は利用者ご自身の判断と責任において行ってください。
参考文献
条文
所得税法第2条
法人税法第2条
所得税法施行令第7条
国税庁HP
繰延資産の範囲について




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