一人親方やフリーランスとして開業するとき、開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を書いていて手が止まりやすいのが、「給与等の支払の状況」欄と、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(納期特例)」を出すかどうかです。
「人を雇っていないけれど、給与欄は埋めるの?」「納期特例も一緒に出しておくべき?」と迷われる方は少なくありません。
そこで今回は、人を雇わない一人親方(フリーランス)の場合に、この2つをどう扱えばよいのかを整理してみます。
結論として、人を雇わない(家族の専従者にも給与を払わない)一人親方は、
- 開業届の「給与等の支払の状況」欄は空欄で提出すればOK
- 「納期特例」の申請は出す必要はありません(むしろ出さないほうがよい)
これだけです。理由は、給与を払わない一人親方は、そもそも源泉徴収義務者ではないからです。
なお、同じ一人でも、マイクロ法人(一人社長の会社)の場合は源泉徴収義務者になるため、注意が必要です(くわしくは記事の最後で触れます)。
それでは、本編へ。
一人親方・フリーランスは源泉徴収義務者ではない
源泉徴収義務者とは、給与や一定の報酬を支払うときに、所得税をあらかじめ差し引いて、本人に代わって国へ納める人や会社のことです。
ただし、個人事業主の場合は、誰にも給与を払っていなければ、原則として源泉徴収義務者にはなりません。
一人で仕事をしている一人親方やフリーランスは、まさにこの状態です。
少し意外に思われるかもしれませんが、給与を払わない個人は、外注先や税理士などに報酬を払っても、源泉徴収は不要です(所得税法第204条第2項第2号)。
「報酬を払うと源泉徴収しないといけない」と思われがちですが、給与を払っていない一人親方には、原則として当てはまりません。
この「そもそも源泉徴収義務者ではない」という点が、開業届の給与欄と納期特例をどう扱うかの答えに、そのままつながります。
※一人親方ではあまりないケースですが、ホステス等(バーやクラブでの接待など)に報酬を支払う場合は、給与の支払がなくても源泉徴収が必要です。
開業届の「給与等の支払の状況」欄は空欄でOK
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)には、「給与等の支払の状況」という欄があります。
従業員数や給与の定め方、税額の有無などを記入する欄です。
欄があると、つい「何か書かないといけないのかな」「ここを埋めたら、源泉徴収の手続きが必要になるのでは」と身構えてしまいがちです。
でも、人を雇わない一人親方は、この欄は空欄のままで問題ありません。
ここは本来、人を雇って給与を払う人が、その状況を記入するための欄だからです。
給与を払わないなら書くことがないので、空欄で提出して差し支えありません。
ポイントは、「欄を埋めたかどうか」で源泉徴収義務者になるわけではない、ということです。
あくまで、実際に給与を払うかどうかで決まります。無理に埋める必要はありませんし、空欄でも不備にはなりません。
なお、給与を払っていない一人親方は、「給与支払事務所等の開設届出書」は原則として提出不要です。

「納期特例」は出さない ― つい出しがちなので注意
開業の届出をまとめて出すとき、開業届に「給与欄」があることから「自分も源泉徴収義務者になったのかな」と思う方は少なくありません。
そして、納付の手間を減らそうと、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」まで一緒に出してしまうケースもよくあります。
ですが、人を雇わない一人親方は、この申請も出す必要はありません。
そもそもこの特例は、源泉徴収した所得税を年2回にまとめて納めるための制度です。
給与を払わない一人親方には、納めるべき源泉税がないので、使う場面がありません。
この特例は、そもそも源泉徴収義務者であることを前提とした制度です。そのため、給与を支払っていない一人親方があえて申請する必要はありません。
すると、納める税額がなくても税務署から納付書が届き、期限ごとに「0円の納付書」を出す手間が生まれます。
放置すると「未納では?」と連絡が来ることもあります。
納期特例は、実際に人を雇うことになったときに、給与支払事務所等の開設届出書と一緒に出せば十分です。

もし納付書が届いたら ―「0円納付書」
「過去に人を雇っていた」「納期特例を出してしまった」などで、すでに源泉徴収義務者として登録されていると、税務署から納付書(所得税徴収高計算書)が届くことがあります。
このときは、その期に天引きした税がなくても、税額を0円(本税0)で記載した納付書を提出しておきましょう。
「納付すべき税額はありません」という記録が残り、未納扱いや税務署からのお尋ねを防げます。
e-Taxからも0円で送信できます。
令和9年からの改正 ― 開業届で省略できなくなる(人を雇う人向け)
補足として、令和9年(2027年)1月1日からの改正にも触れておきます。
これまでは、人を雇う個人でも、開業届を出せば「給与支払事務所等の開設届出書」を省略できました。
この省略が、令和9年1月1日から廃止され、開業届とは別に開設届の提出が必要になります。
ただし、これは「人を雇って給与を払う人」の話です。人を雇わない一人親方には関係しません(そもそも給与支払事務所の届出自体が不要だからです)。
くわしくはこちらの記事で解説しています。

マイクロ法人は別 ― 会社が給与を払うので手続きが必要
同じ「一人」でも、マイクロ法人(一人社長の会社)を設立した場合は扱いが変わります。
マイクロ法人(一人社長の会社)で自分に役員報酬を支払う場合は、源泉徴収義務者になるため、注意が必要です。
そのため、法人設立の届出とは別に「給与支払事務所等の開設届出書」の提出が必要で、給与の支給人員が常時10人未満であれば、納期特例の申請も検討することになります。
本記事の「給与欄は空欄でOK・納期特例は不要」は、あくまで人を雇わない個人(一人親方・フリーランス)の話です。
マイクロ法人には当てはまらない点にご注意ください。
| 一人親方(個人) | マイクロ法人 | |
|---|---|---|
| 給与の支払 | なし | 会社→自分に役員報酬 |
| 源泉徴収義務者 | ならない | なる |
| 給与支払事務所の開設届 | 不要 | 必要 |
| 納期特例 | 不要 | 必要に応じて提出 |
まとめ
人を雇わない一人親方・フリーランスが開業届を出すとき、迷いやすいのは「給与等の支払の状況」欄と「納期特例」の2つです。
給与を払わない一人親方はそもそも源泉徴収義務者ではないため、給与欄は空欄で提出すればよく、納期特例も出す必要はありません。
むしろ、よかれと思って納期特例まで出してしまうと、源泉徴収義務者として登録され、あとから0円の納付書を出し続ける、といった手間が生じることもあります。
開業のときに、余計な届出まで出さないことがポイントです。
なお、令和9年からは、人を雇う個人について「開業届で開設届を省略できる」取扱いが廃止されますが、これは給与を払う人の話で、人を雇わない一人親方には影響しません。
給与支払事務所や源泉徴収の手続きは、人を雇って初めて関係してくるものです。
人を雇わないうちは、開業届のほかに気にすることは少ない、といえます。
おわりに
開業のときは、いろいろな届出書を目にして「全部出さないといけないのかな」と不安になりがちです。ですが、人を雇わない一人親方・フリーランスの場合、源泉徴収まわりで必要なことはほとんどありません。
家族へ専従者給与を払う場合や、短期でも人を雇う場合には、源泉徴収義務者となり手続きが必要になりますので注意が必要です。
参考文献
条文
所得税法第204条
所得税法第216条
所得税法第230条
所得税法施行規則第99条
国税庁HP
タックスアンサー No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
個人事業の開業届出・廃業届出等手続
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出


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